amahikasです。
以前から何度か試聴をしていてEN700シリーズの印象がいいSIMGOT社からレビューの依頼を受けました。また、今回はSIMGOT社からEK3を提供していただきました。いつもの通り正直なレビューを書くという私のポリシーを承諾いただいた上で依頼を受けていますので、今回も正直な感想を書いていきます。
SIMGOT EK3について
EK3の紹介に入る前にSIMGOT社について少し書いておきましょう。SIMGOT社は2015年に中国の深センに設立されたメーカーで歴史はそれほど長くありません。初めて発売したイヤホンは私もお気に入りの EN700 で一万円ちょっとながらもナチュラル且つニュートラルな音に驚きました。もちろん価格なりと感じる点もありましたが、私がポータルオーディオ製品にかけられる上限が一万円前後なら間違いなく選んでいたであろう製品でした。その後、EN700はEN700 Bass、EN700 Proと進化していきました。個人的にはEN700 Proが一番好きです。
さて、今回紹介するEK3は3基のBAドライバを搭載したイヤホン(IEM)です。コネクタは2Pinを採用していて独自の保護用ガイドをつけています。音質をチューニングすることの出来るスイッチがついてるのも特徴のひとつです。ケーブルは四芯の銀OCC&SPC混合線を採用しています。
EK3の価格は4万円弱です。発売されたばかりの製品となります。
試聴について
試聴環境
試聴にはメインで使っているDAP(デジタルオーディオプレーヤー)のCayin i5 DAPとiBasso DX220、OPUS #3を主に使いました。どちらも3.5mm端子に接続しています。再生アプリは3製品ともにNeutron Music Playerを使っていて設置値も合わせています。
DX220とOPUS #3の設定はHigh Gain、Cayin i5はLow Gainです。イコライザ類はすべて無効にしてあります。イヤーピースはSpinFitのCP145を着けました。
試聴に使う音源はいつもと同じ曲です。
主にCDから取り込んだAppleロスレス(ALAC)で、試聴に使う曲や聴きどころについてはこちらを参考にしてくださいませ。
チューニング切替スイッチ
EK3の特徴のひとつは音質をチューニングする切り替えスイッチが本体についてることです。
スイッチを切り替えるには付属のブラシを使用します。
このように切替スイッチは非常に小さいので私は老眼鏡を使わないと切り替えることができませんでした(笑)
4つのチューニングを試した結果、バランスがもっとも好みだったのでこの記事はバランスでEK3を聴いた感想となります。
試聴結果
EK3は箱出しの状態だとやや硬めの音でした。現在は80時間近く鳴らしていますが、30時間ほど鳴らせば十分という印象です。感想は主にCayin i5で聴いたときの感想です。
それではそれぞれの曲での印象を書いていきます。
Bisso Baba / Bob James
冒頭のベース音で中域の低いところから低域を確認しましたが、不足感はありません。シンバル音ははっきりと聞こえますが、ややシャリシャリとした音になり、滑らかさがもうひとつといったところです。
全体的に着色がなく上流に素直な音の出し方をします。帯域バランスもフラットに近いです。激しく主張するタイプの音ではなく非常に落ち着きがあり、安定しています。シンバル音以外は気になるところがないです。
Rio Rush / Fourplay
この曲も良いですね。”Bisso Baba”と一緒でシンバル音の軽さが少し気になりますが、その他は気持ちよく聴くことが出来ます。派手に目立つ帯域もないですし、控えめと感じる帯域もありません。
Flesh and The Power It Holds / Death
もう少し解像力が欲しいところですが、曲の迫力やスピード感は表現できています。音の密度が上がり、情報量が増えると少し各楽器の分離が悪くなって整理が出来なくなってると感じます。
Master of Puppets / Metallica
この曲くらいの情報量だと違和感はないです。音源の粗もそのままに鳴らしてくれて好感です。ギターソロのパートも強弱がちゃんと表現できています。ギターの音色もクリアできれいです。
At The End Of The Day / Les Miserables
冒頭のパーカッションと歓声も違和感なく聞こえますし、フルオーケストラの演奏も表現できてます。これくらいの曲だともう少し音に深みや奥行きが欲しいところですが、価格を考えると健闘していると思います。
Crush / Kelly Sweet
女性ボーカルも良いですね。バックで流れるアコギの繊細な表現もうまいです。ベース音はキレがあるのは好感ですが、包み込むような感覚は薄いです。低域の量感はダイナミックドライバーを採用したイヤホン(IEM)のほうが有利ですかね。
The Brain Dance / Animal as Leaders
これくらい音の空間に余裕のある曲だと非常に良いですね。音源の良さをさらに引き立たせてくれます。高域は開放的で天井が高く感じますし、低域も下までよく出ています。
音質的に気に入っている点
EK3の音で気に入ってる点を挙げていきます。
- クセがなくて素直
- 全体的に乾いた音質
ひとつめのクセがなくて素直という点については先にレビューをしたCayinのYB04でも挙げました。全体的な音の特徴はYB04と似ています。着色が少なくて音源に対して素直です。上流のDAP(デジタルオーディオプレーヤー)を変えることで音も変わります。例えば、私がリファレンスでよく使うDT 1770 PROやDT 1990 PROで聴いたときのi5とDX220の違いがほぼ同じようにEK3でも感じ取ることができます。
音質は全体的に乾いていてリスニング向けにも使えますが、モニターとして分析的に聴くほうが合うかなと思います。応答速度が速いのでメタル系の曲にも合いますし、迫力もでます。細かい音が聞き取りやすいのも気に入っている点です。
音質的なデメリット
EK3を聴いていていまひとつと感じたを挙げました。
- 全体的に滑らかさが少し足りない
- 高域の表現力と音がもうひとつ
全体的に滑らかさがもう少し欲しいと感じることがありました。DAP(デジタルオーディオプレーヤー)をDX220に変えると多少は良くなりました。(この辺も上流に対して素直です)
EK3よりも安価なPinnacle P1と比べると同等の滑らかさを感じることが出来たので価格を考えると健闘しています。
ケーブルの出来に影響していますが、高域が粗く聞こえることがありました。サラサラではなくザラッとした聴感になります。またシンバル音やアコギの響き方が雑に感じることもありました。
デザインと質感
写真で見ていきましょう。
箱と付属品です。箱はサイズがちょうど良くて質感も高いです。付属品はケーブル、イヤーピース、耐圧ハードレザーケース、チューニングブラシ、VIPカード&保証書、取扱説明書となっています。
EK3本体です。本体のカラーはクリアとクリアブラックから選ぶことができます。非常にきれいにできていますし質感も高いです。
Pinnacle P1とのサイズ比較です。耳に装着すると大きさや重さは感じないのですが、実際はそこそこ大きいですね。
N5005と比べるとさらに大きいです。
ケーブルとイヤーピースを着けました。イヤーピースはSpinfitです。2Pinコネクタ部分はガードがついていて安心感があります。
シェルもきれいです。
付属品のケースとブラシです。こういう小物が付属するのはありがたいです。特にブラシは意外とよく使います。ブラシは切替スイッチを切替るのにも使用します。ケースはYB04のケースとよく似ています(笑)
音漏れと遮音性
YB04はこれまでで最高レベルの音漏れと遮音性でした。EK3についても同様です。これまでWestone 4Rが個人的に最高レベルだったのですが、YB04とEK3とふたつもW4Rレベルの性能を発揮する製品が出てきたのは嬉しい悲鳴です。
YB04の記事にも書いたように最近は開放感や音の抜けを良くするために遮音性が犠牲になっている製品が多くて、実際に電車の中などで何度も使ってみるとがっかりすることがあるんですが、EK3とYB04ともに問題ありませんでした。
装着感
YB04と同じく、Westone 4Rと同等の装着感です。長いこと、イヤホン(IEM)の装着感で悩んでいたのが嘘のように最近は私の難しい耳にも合う製品が出てきます。音だけでなく、装着感といった点でもイヤホン(IEM)は進化してると感じます。
イヤーピース
試したのは以下のイヤーピースです。
- SpinFit CP100
- SpinFit CP145
- SpinFit CP360
- ortofon
- Spiral Dot ++
装着感はどれも良かったです。音質的に気に入ったのはSpinfit CP145とCP360だったので、CP360を常用しました。EK3はN5005とPinnacle P1に比べるとBAドライバのみで構成されているので低域の量感を少し強調してくれるSpinFit系のイヤーピースが合うと感じました。
ケーブル
中国国内版と海外版ではケーブルが異なります。私の手元にあるのはアップグレードケーブルと呼ばれる海外版に付属するケーブルです。0.78mm 2-pin OCC&SPC混合ケーブルで銅線と銀メッキ銅線のハイブリッドになっています。
音の感想で高域についていまひとつと感じましたが、このケーブルが原因かなと思ってちょっと実験をしてみました。
まず、2Pinのケーブルでちょうど良いものがなかったので、eイヤホンで2PinをMMCXコネクタに変換するアダプタを購入してきました。
2,600円なら実験をするのにちょうどいい価格です。
EK3本体と変換アダプタです。変換アダプタは小さいので慎重に扱う必要があります。
変換アダプタをEK3に取り付けて、その先にORB Clear force Ultimateを接続しました。思っていたよりもしっかりとアダプタとケーブルが固定されました。変換アダプタを間にはさんでいるので本体とケーブルの間が長くなります。常用する場合は、注意をして取り扱わないとコネクタ部分を破損しかねないので強くお薦めできる構成ではありません。
手持ちのケーブルはORB Clear force UltimateとORB Clear forceを試しました。Ultimateだと全体的に滑らかさが増して、ウォームな音になりました。高域の表現力は上がりましたが、やや低域が強く鳴りすぎてEK3の良いところがなくなりました。無印のClear forceのほうが好みに合っています。こちらは全体的に滑らかさが増しつつ、ドライな傾向は変わらずに高域の表現力が上がります。特に銀素材特有の高域のクセがなくなったのが個人的には大きいです。素直でナチュラルな高音を鳴らすようになりました。
音量(鳴らしやすさ)
Cayin i5だと約30で聴きました。DX220はAMP9との組合せでHigh Gainにして80くらいです。
鳴らしやすいとはいえない製品ですが、DAP(デジタルオーディオプレーヤー)であれば問題はないでしょう。スマートフォンで使う方は購入前に試聴をお薦めします。
まとめ
イヤホン(IEM)はダイナミックドライバーもしくはハイブリッド型を好んで傾向にありましたが、先にレビューを書いたCayin YB04からBAドライバーも再び耳に馴染む用になってきました。店頭試聴をしても相変わらず好みに合わないBAドラーバー搭載の製品もあるので、ダイナミックドライバーもしくはハイブリッド型のほうが私に合うのは変わりませんが、印象は良くなりつつあります。
今回試聴をしたEK3も好みに合いました。普段メインで使っているヘッドホンやイヤホン(IEM)に比べると物足りない点はありましたが、価格を考えるとよくまとまっている製品と感じます。
EK3は全体的にフラットな傾向にあって、クセがなく音源に素直です。上流となるDAPやアンプ、ケーブルを変えることで敏感に反応するのも好感ですし、音の出口として間口の広さを感じます。EN700シリーズもよくまとまっていると感じましたが、縦のレンジが少し狭くて高域と低域がもっと出ればと思いました。EK3では低域はものすごく下まで出ているわけではありませんが不足感はありません。高域については十分に出ていて開放感もあります。
日本版に付属するケーブルは私には合いませんでしたが、普段から好んで使っているケーブルに変えると好みの音に変わったのでこの辺も間口の広さやポテンシャルの高さを感じます。逆に言うと標準で付属するケーブルはもう少しこだわって欲しいとも思いました。
評判のいい中国製のポータブルオーディオ製品を聴くことは多いのですが、詰めが甘くてもうひとつと感じることが多いです。しかし最近は感心させられる製品も多くなってきてEK3もそんな製品のひとつとなりました。
最後に価格について言及すると、4万円弱はなかなか難しいところだと思います。私が愛用していたRK01が3万円弱、CayinのYB04が5.5万円と考えるとRK01と同じくらいの価格のほうが競争力はあると感じています。特にYB04が10万円前後のN5005と比べても遜色のない音だったのと、直近で聴いた製品ということもあり余計に比べてしまいました。それでもEK3はお気に入りの製品になったのでN5005とともに愛用していこうと思います。RK01の穴を埋めたかったのでちょうど良いタイミングでした。
なお、試聴をする際は是非、お気に入りのケーブルも試してみてください。
今回は以上です。
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